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る所に洗濯物を干すと、近所のおばちゃんが飛んできて、すぐに「あれを下ろせ、みっともない」と文句を言う。これが常識であります。
これはスイスでありましたが、ちょっと見晴らしの良いところで外を見ようと、車を止めた途端に近所のおばちゃんにつかまりまして、何を言っているのか一生懸命聞いていると、要するに「ここは駐車禁止だ」と言っているのです。それで1人だけ英語が話せる人がいて、誰が決めたのかと言ったら、“We”と言うのです。つまり警察ではないのです。
自分たちが決めたのだからここをどけというのです。ここに止めるなと、それで親切な人が、少し200メートルぐらい下におりたところに広場がある、そこだったら止めていいから行きなさいと、また200メートルおっちら上がってくるなら、「景色を見るのはもういいよ」と言って、景色を見るのを断念したのですが、日本では到底考えられないのです。
つまり、そういう街並みでありますとか、景観でありますとかは公共の財産なんだという考え方がある。その点では、日本は非常に劣っているのではないか、大切にしていないのではないかと思われます。
もっとも箱庭型の街の是非については、これは議論の余地があると思います。日本では倉敷の街というのが有名でありますが、あまりにもつくられた映画のセットの様な感じがありまして、嫌いという人も結構増えております。
一方、ブルージュという街がございますが、これは見事に箱庭みたいです。しかし、ここには人が生活しておりまして、ここの市場がおもしろかったです。そこに住んでいる人がおり、そこで何を市場で売り買いをしているか、そしてどんなものを食べているか、これが非常におもしろいところであります。
大阪も最近は交流都市といって観光熱心でありますが、大阪で見に行くところは何もない。大阪城と海遊館、こう言って自嘲気味な事を言う人がいます。ところが、実際にはその様な事はないのでありまして、あの街にも沢山おもしろいものがあります。特におもしろいのは市場です。これは見事な観光資源です。そういう視点がないのです。
京都などでも錦市場に外国の人、これはヨーロッパ系であろうと、アジア系であろうと関係がないのですが、連れて行きますと大変興奮します。自分の体験からいたしましても、何がおもしろかったかというと、中国の一番西端にカシュガルという街がありますが、ここの家畜市、ラクダから馬からロバから、これを売り買いするあの喧騒と殺気、その中でおばあちゃんが股ぐらのところに鶏2羽を抱えて朝から晩までじっとうずくまっているというあの異様さは未だに忘れられません。やはり人間が生きているという、その生活そのものに触れるというのは大変な興味のある事でございます。
そういう意味で、ぜひ外国からの人たちを市場にお連れになるといいと思います。また立派な料亭もよろしいのですが、家庭料理を食べさせるような店に連れていくことをお奨めします。こういう店では鉢がずらっと並んでいます。これは何だと聞かれてもほとんど説明が難しい訳でありますが、そういう時は「トライ、食ってみろ」と、こう言うのです。
それで食べさせてみると、「これはグリーンオニオン、ねぎだ」というのです。つまり、ぬたを食っているのです。ぬたというのは味噌で和えた一種の日本式のサラダみたいなものです。つまり、味噌と酢、こんなものは普通は外国人は食べないのであります。しかし、こう奨めて少しずつ取ってあげると大変おもしろがって食べてくれるのです。それから、なれ鮨というものがあります。魚を発酵させたものでありますが、これをそのまま出すと外国の人は絶対に食べません。それを小さく切りまして、親指の爪ぐらいの大きさにして皮をはいで、それで爪楊枝を付けて出します。「これは何だ」「チーズだ」という訳です。そうすると食べます。食べておいしいと言います。これは一度確かめてごらんになったらよろしいが、実はこれは乳製品の発酵となれ鮨の発酵が非常によく似ているらしいのです。専門家に言わせると味も大変よく似ているから、これはチーズだといっても別に嘘をついたわけではない。日本のチーズだと言っても良いのだそうです。変に「これはなれ鮨である、これは腐った魚である」などと言うと誰も食べないです。ですから、ここには通訳の技術というものが多少いるのだろうと思います。
そういう意味で、きれいな街並みと、美しい自然という事を言いましたが、日本には多少アジア的な隈雑さがありますし、そういうハード以外に人々が生きているという姿あるいは生活そのものに触れるということ、これがこれからの観光の非常に重要なポイントになってくると思います。
さらに、最近、有名になりましたのは三内丸山古墳という非常に古い、5000年から4000年前の遺跡が日本でも出てまいりました。最近では長江上流の竜馬古城というところから、日本と中国の探検隊が古い遺跡、これは4500年前のものを見つけ

 

 

 

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